在留資格「経営・管理」の基準の明確化(2名以上の外国人が共同で事業を経営する場合の取扱い)


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 行政書士 林 幹は、平成22年(2010年)10月14日、内閣府に対して「2名以上の外国人が共同で起業しおのおの役員に就任する形態の場合、従業員が存しないことの一事をもって、両名に在留資格『投資・経営』(現在は、在留資格「経営・管理」)を認めない運用を改め、真実両名が経営活動に従事する場合には、両名に在留資格『投資・経営』を認めるべき」との意見を提出しました。 

 在留資格「経営・管理」に該当する活動をするためには、単に取締役等に就任しているだけではなく、事業の経営又は管理に実質的に参画する者としての活動をすることが必要ですが、外国人甲と外国人乙が、真実事業の経営等に実質的に参画するのであれば、本来、在留資格「経営・管理」が付与されるはずです。しかし、2名以上の外国人が共同で事業を経営する場合、従来の審査実務では、小規模企業においては2名以上の外国人に対して同時に「経営・管理」が認めない運用になっていました。東京入国管理局の担当審査官から「役員の下に、部長、課長、一般社員が存在するような会社でない場合(ピラミッド型の組織を有しない会社の場合)、たとえ当該外国人が役員としておのおの経営活動に従事する場合であっても、2名以上の外国人役員には在留資格「投資・経営」(現在の「経営・管理」に相当)を付与できないと説明されたこともあります。当該案件では、大学を卒業している者については、在留資格「人文知識・国際業務」に変更し(現在であれば、「技術・人文知識・国際業務」)、大学を卒業していない者についてのみ在留資格「経営・管理」の付与を受けました(※)。また、代表取締役の申請人には、在留資格「経営・管理」が付与され、専務取締役には、在留資格「企業内転勤」が付与されたこともあります。

※入管法上、在留資格「経営・管理」と「技術・人文知識・国際業務」とは一般法・特別法の関係にあり、企業の経営活動に従事するとして「経営・管理」の該当性があれば、本来、「技術・人文知識・国際業務」の該当性は排除されるはずですが、審査実務ではそのようになっていません。

 しかし、①経営の知識経験を有する外国人Aと技術の知識経験を有する外国人Bが共同で事業を立ち上げ、それぞれ代表取締役に就任して経営活動に従事するものの、設立間もないため役員しか存在しない形態はけして珍しくないこと、②2名以上の外国人が共同で事業を経営する場合に、AとBによる共同経営であるにもかかわらず、一方が「経営・管理」で、他方が「技術・人文知識・国際業務」という処理は実態に適合しないことなどから、従来の入管実務には疑問がありました。

 そこで、平成22年10月22日、当時内閣府に設置されていた「国民の声」を通じて、「2名以上の外国人が共同で起業しおのおの役員に就任する形態の場合、従業員が存しないことの一事をもって、両名に在留資格「投資・経営(現在の「経営・管理」に相当)」を認めない運用を改め、真実両名が経営活動に従事する場合には、両名に在留資格「投資・経営」を認めるべきである。」との意見を提出しました。その結果、法務省入国管理局から、平成24年3月30日、「在留資格『投資・経営(現『経営・管理』)』の基準の明確化(2名以上の外国人が共同で事業を経営する場合の取扱い)」が公表されました。

在留資格「経営・管理」の基準の明確化(2名以上の外国人が共同で事業を経営する場合の取扱い)                                  

                                                                                  平成24年3月
                                                                                  法務省入国管理局
                                                                                 (平成27年3月改訂)

 外国人が我が国において,事業を起こし,その経営又は管理に従事する場合については,該当する在留資格として,「経営・管理」の在留資格が考えられますが,この場合,前提として,当該外国人が事業の経営又は管理に実質的に参画していること,すなわち,事業の運営に関する重要事項の決定,事業の執行若しくは監査の業務に従事する活動を行っていることが必要となります。

 共同で事業を起こした複数の外国人がそれぞれ役員に就任するような場合には,それぞれの外国人が従事しようとする具体的な活動の内容から,その在留資格該当性及び上陸基準適合性を審査することとなります。

 こうした在留資格「経営・管理」に係る運用の明確化の観点から,2名以上の外国人が共同で起業し,他に従業員がいない状況で,それぞれ役員に就任しようとする場合において,これら外国人全員に在留資格「経営・管理」が認められる事案の基本的な考え方と該当する事例について,次のとおり公表します。


1 基本的な考え方

 「経営・管理」の在留資格に該当する活動は,先に述べたとおり,事業の経営又は管理に実質的に参画する者としての活動ですので,役員に就任しているということだけでは,当該在留資格に該当するものとはいえません。

 また,複数の外国人が事業の経営又は管理に従事するという場合,それぞれの外国人の活動が「経営・管理」の在留資格に該当するといえるためには,当該事業の規模,業務量,売上等の状況を勘案し,事業の経営又は管理を複数の外国人が行う合理的な理由があるものと認められる必要があります。

 実際には,従事することとなる具体的な業務の内容,役員として支払われることとされる報酬額等を勘案し,これらの外国人の行う活動が事業の経営又は管理に当たるものであるか否かを判断することとなります。

 上記の考え方を更に具体化すると,(1)事業の規模や業務量等の状況を勘案して,それぞれの外国人が事業の経営又は管理を行うことについて合理的な理由が認められること,(2)事業の経営又は管理に係る業務について,それぞれの外国人ごとに従事することとなる業務の内容が明確になっていること,(3)それぞれの外国人が経営又は管理に係る業務の対価として相当の報酬額の支払いを受けることとなっていること等の条件が満たされている場合には,それぞれの外国人全員について,「経営・管理」の在留資格に該当するとの判断が可能といえます。

2 該当する事例

 具体的な事例としては,次のようなものが考えられます。

事例1

 外国人A及びBがそれぞれ500万円出資して,本邦において輸入雑貨業を営む資本金1000万円のX社を設立したところ,Aは,通関手続をはじめ輸出入業務等海外取引の専門家であり,Bは,輸入した物品の品質・在庫管理及び経理の専門家である。Aは,海外取引業務の面から,Bは,輸入品の管理及び経理面から,それぞれにX社の業務状況を判断し,経営方針については,共同経営者として合議で決定することとしている。A及びBの報酬は,事業収益からそれぞれの出資額に応じた割合で支払われることとなっている。

事例2

 外国人C及びDがそれぞれ600万円及び800万円を出資して,本邦において運送サービス業を営む資本金1400万円のY社を共同で設立したところ,運送サービスを実施する担当地域を設定した上で,C及びDがそれぞれの地域を担当し,それぞれが自らの担当する地域について,事業の運営を行っている。Y社全体としての経営方針は,C及びDが合議で決定することとし,C及びDの報酬は,事業収益からそれぞれの出資額に応じた割合で支払われることとなっている。


※平成24年3月30日に公表された当初のものには、「平成23年度中に該当事例はありませんでしたが、いずれにしても、個別の申請ごとに、企業等の事業活動及び従事することとなる具体的な業務に基づき、当該外国人の活動が前述の(1)から(4)に掲げる条件を満たしているものであって、経営又は管理に当たるものであるものといえるかを判断することとなります。」との記載がありました。このことは、行政書士林幹が指摘するように「従業員が存しないことの一事をもって、複数経営者双方に在留資格『投資・経営』(現在は、在留資格「経営・管理」)を認めない運用」が行われたいたことを裏付けます。


※平成24年3月30日に公表された、当初の取扱い

在留資格「投資・経営」の基準の明確化(2名以上の外国人が共同で投資し,事業を経営する場合の取扱い)(PDF)


 

提案理由)

 東京入国管理局就労審査部門統括審査官の説明によると、役員の下に、部長、課長、一般社員が存在するような会社でない場合(ピラミッド型の組織を有しない会社の場合)、たとえ当該外国人が役員としておのおの経営活動に従事する場合であっても、2名以上の外国人役員には在留資格「投資・経営」を付与できないとされる。

 私は、行政書士として入管申請に係わっているが現にそのように運用されている。法務省は個別具体的判断と回答するものと思われるが、実際にはピラミッド型の組織を有しないことの一事をもって在留資格「投資・経営」が認められてないことは、許可・不許可事例を調査していただければ分かる。 

 経営の知識経験を有する外国人Aと技術の知識経験を有する外国人Bが共同で事業を立ち上げ、それぞれ取締役に就任して経営活動に従事するものの、設立当初で従業員が存しない場合、東京入国管理局の運用によると両名に在留資格「投資・経営」が付与されない。設立当初においては、役員のみしか存しない形態はけしてめずらしいものではなく、このような事業形態を営む外国人に在留資格「投資・経営」が付与されないことは、外国企業・外国人による対日投資の大きな障壁となっている。

 なお、外国人Aが代表取締役に就任し、外国人Bが従業員になる場合には、A に在留資格「投資・経営」、B に在留資格「技術」などが認められている。実態としては、AとBによる起業にもかかわらず、このような形式を採らざるを得ないのは技巧的である。 

 名ばかりの経営者による不法就労を防止しようとするあまり、真実経営活動に従事しようとする場合であっても、従業員が存しないことをもって一律に在留資格「投資・経営」を認めない運用は不当であり、対日投資促進のためにも改めるべきである。

内閣府での議論の経緯がよくわかります。

 


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